成年後見人は、本人の契約や財産管理を法律面から支えます。施設の契約や費用の支払いは後見人へ相談し、毎日の介護や手術への同意は、それぞれの担当・権限を確認してください。入院や介護に関する仕事のすべてを後見人が担うわけではありません。
施設の利用契約や医療費の支払いと、実際の介護や手術への同意は別です。 本人、家族、後見人、医療・介護の担当者が何を担うか、具体的な作業ごとに確認しましょう。
この記事は2026年10月1日時点の現行制度について、主に成年後見人の役割を説明します。保佐人・補助人の代理権は、審判で認められた内容を確認する必要があります。厚労省の法定後見の説明
2026年6月に成立・公布された法律では、成年後見制度の見直しが定められました。主要な見直しの施行は公布から2年6月以内の政令日です。現行の権限と混同しないよう、法務省の案内と2026年の制度改正を確認してください。
図解:入院の依頼を4つに分ける

図解の内容を文章で読む
- 契約:書類と代理する権限を確認する
- 支払い:請求先・担当・期限を確認する
- 意思決定の支援:本人への説明と希望の確認を支える
- 生活の支援:物品・移動・緊急連絡の担当を決める
確認する4項目。一般的な医療同意権は別問題。
財産の管理と、医療・介護サービスの契約が後見人の仕事
後見人は、預金や不動産を管理し、収入・支出を把握して必要な支払いを行います。本人の暮らし、健康状態、希望を踏まえて、医療・介護・福祉サービスの利用契約なども行います。この暮らしに関する支援を「身上保護」といいます。厚労省の制度概要
契約後も、本人の生活と契約内容が合っているかを確認します。食事の介助や掃除など、実際の介護は一般に後見人の職務に含まれません。厚労省の選任と役割
| 場面 | 後見人の関わり方 |
|---|---|
| 施設入所 | 本人の希望を確認し、利用契約や支払いを行う |
| 毎日の入浴・食事介助 | 介護サービスや家族等による支援を調整する |
| 病院の診療契約 | 権限に基づき契約・費用の支払いを行う |
| 手術への同意 | 後見人という立場だけで一般的な医療同意権はない |
| 入院費の保証 | 本人の預金から払うことと、個人で債務を保証することは別 |
| 本人の自宅売却 | 居住用不動産なら事前に家庭裁判所の許可が必要 |
医療同意と契約を分け、本人の意思決定を支える
医療・介護の契約を代理できることと、本人の身体に関わる医療行為に同意できることは別です。厚労省が周知するガイドラインは、本人に提供される医療についての決定・同意を、後見人等の業務に含まれるとはいえないと整理しています。医療に係る意思決定が困難な人への支援ガイドライン
後見人は、病院との話合いに参加し、本人の暮らしや医療に関する希望を伝えたり、情報を整理したりして、意思決定を支えます。本人の意思確認が難しい場合は、医療・ケアチーム等の検討につなぎます。
「後見人がサインするまで治療を決められない」と言われたら、その書面が診療契約なのか、費用支払いの確認なのか、治療行為への同意なのかを確認しましょう。なお、精神保健福祉法上の医療保護入院など、別の法律に基づく同意の問題は区別して確認する必要があります。
入院の書類に困っている方は親の入院保証人と医療同意も参照してください。
「身元保証人」という一つの欄に、複数の役割がある
病院等の「身元保証」には、緊急連絡、入院中の物品準備、費用支払い、退院支援など、異なる役割が含まれる場合があります。依頼する作業を分け、後見人が担える部分を確認してください。後見人になっただけで、自分のお金を使って本人の債務を保証する義務は生じません。
特に親族以外の専門職等が本人の債務の保証人になることは、一般に適切でないとされています。署名を求める前に、書類で求める役割を分けて相談してください。厚労省のガイドライン掲載ページ
例えば「退院時に誰が迎えに行くか」と「入院費が払えないとき誰が肩代わりするか」は、まったく違う話です。後見人に連絡役を依頼する場合も、連絡可能な時間や、緊急時の代わりの連絡先を確認しましょう。
自宅の処分や家族への贈与には、別の制約がある
本人が住んでいた家などの居住用不動産を処分する前に、家庭裁判所の許可を得る必要があります。成年後見人に財産管理の権限があっても、本人の施設入所だけで、許可を省いて売れるわけではありません。東京家庭裁判所の手続案内
また、本人の財産を相続税対策として子へ贈与したり、親族へ貸し付けたりすることは、裁判所の手引で原則としてできない行為とされています。静岡家庭裁判所の申立ての手引
財産は、本人の生活のために管理します。将来相続する家族の利益とは分けて考えてください。「家族全員が望んでいる」という理由だけでは、処理できません。
後見人がいるからこそ、本人の希望を記録する
認知症になった人にも、住みたい場所、好きな過ごし方、会いたい人についての意思があります。契約の判断が難しくても、日々の希望を伝えられる場合があります。本人の言葉を聞いてください。
意思決定支援では、本人が理解しやすい説明や選択肢、落ち着いて話せる環境を工夫します。本人の意思を確認しにくいときも、生活歴や以前の発言などの根拠を集め、家族の希望と区別して検討します。厚労省の意思決定支援の説明
家族と後見人で、作業と連絡先を決める
相談前に、「施設契約の担当」「支払いの担当」「本人の生活状況を伝える人」「夜間・休日の緊急連絡先」の四つを整理してください。誰がどこまで担当するかを決めると、後見人への依頼も具体的になります。
例:病院から「後見人に全部お願いしたい」と言われたら
以下は役割分担を考える架空の例です。父に専門職の成年後見人がついています。入院時、病院から長男へ「後見人がいるなら、同意書も、着替えの準備も、支払いも任せてください」と説明がありました。
長男は、まず依頼を四つに分けます。診療・入院の契約、本人の財産からの支払い、治療の意思決定支援、着替え等の生活支援です。同じ入院に関する作業でも、必要な権限や実際の担当者は違います。厚労省の医療支援ガイドラインは、後見人等の医療同意権を一般的に認める仕組みがないことと、本人の意思決定を支える具体的な役割を整理しています。
契約や支払いは後見人に確認し、衣類の準備は病院・家族・支援サービスで実際にできる人を相談します。治療の説明については、父本人が理解しやすい時間や言葉を工夫し、必要なら後見人や本人をよく知る人の同席を相談します。後見人の同席を求めることと、治療への同意を一任することは同じではありません。
本人が「家に帰りたい」と言ったときの話合い
長男は父の転倒を心配し、施設へ移ってほしいと考えているとします。父の発言を「認知症なので無理」と片付ける前に、帰りたい理由を聞きます。家にいるペットが気になる、妻に会いたい、病院では眠れないなど、帰宅という言葉の中に別の困り事があるかもしれません。
これは退院を必ず本人の希望どおりに進めるという意味ではありません。希望、医療上の条件、介護の体制、支払える費用を分けて、選択肢を検討します。本人が理解しやすい説明を行い、意思を推定する場合も根拠を整理するという原則は、厚労省の意思決定支援の説明に示されています。
話合いの記録には、本人の言葉と家族の希望を別々に記載します。「本人も家族も施設入所を希望」とまとめてよいのは、実際にそう確認できた場合です。意見が違ったなら、違った内容と、本人へ何を説明したかを残しましょう。
支援会議で使う、担当を決めるための質問
次の質問は、医療・介護の担当者、後見人、家族で役割を決めるために使えます。対応の抜けを減らすための整理であり、後見人の権限を増やす書面ではありません。
| 確認する場面 | 質問の例 |
|---|---|
| 契約 | どの書類に、どの立場で署名を求めていますか |
| 支払い | 請求先と支払担当は誰で、期限はいつですか |
| 本人への説明 | 本人がわかりやすい方法で、誰が説明しますか |
| 緊急時 | 夜間の連絡先と、連絡がつかない場合の対応は何ですか |
| 退院 | 移動、衣類、薬、利用サービスを誰が手配しますか |
連絡先を書くときは、連絡を受ける人と、夜間に駆けつけられる人を分けて確認してください。本人の債務の保証と、連絡を受ける役割も別です。引き受ける人がいない作業は「未定」と記録し、病院の相談担当や地域の支援機関へ相談してください。
決めた役割も、本人の状態に合わせて見直す
体調が回復すると、入院時には理解しにくかった説明を理解できることがあります。「本人には確認できない」と記録した後も、そのときの状態に合わせて説明を続けてください。
また、家族の仕事や健康状態が変わり、これまで担当した通院同行ができなくなることもあります。困ったときは「もう無理」だけでなく、いつから、どの作業が難しいかを伝え、代わりの支援を相談します。後見人と介護・医療担当者との連携は、本人の生活を支えるためのものです。厚労省の成年後見人等への案内
相談で迷いやすい質問
後見人が本人の医療情報を受け取れば、治療を決める権限もありますか?
情報の提供や説明を受けることと、医療行為への一般的な同意権は別です。どの情報を何のために扱うかを確認してください。後見等の権限と個人情報の取扱いも確認が必要です。
入院中の世話を、家族が全部引き受ける必要がありますか?
家族だけで対応できない事情を、早めに病院や介護・福祉の相談担当へ伝えてください。利用できる支援と、実際に作業する人を相談しましょう。後見人がついても、生活支援を誰が担うかは別に相談してください。
よくある質問
後見人は本人の買い物を全部禁止できますか?
成年後見でも、日用品の購入など日常生活に関する行為は取消しの対象から除かれます。本人の生活をすべて後見人が置き換える制度ではありません。裁判所の家事事件Q&A
家族が後見人なら、毎日の介護もしなければなりませんか?
後見人の職務と、家族として行う介護は区別します。選任前に家族後見の負担と準備を確認し、続けられる支援を相談してください。

