家族がいなくても、成年後見を利用するために市区町村長が家庭裁判所へ申し立てる仕組みがあります。判断能力が低下し、支払いなどの手続きに困っている場合は、自治体の高齢者福祉・障害福祉担当や地域の相談窓口へ相談してください。
市町村長申立てでは、自治体が申立てを担い、家庭裁判所が本人に必要な支援を審理して後見人等を選びます。役所がそのまま後見人になる仕組みではありません。
図解:相談後の段階を聞く

図解の内容を文章で読む
- 困りごとを伝える:支払い・契約の期限と本人の希望
- 段階を確認:状況確認か申立て検討かを尋ねる
- 担当と次の作業:誰が何を確認するかを聞く
- その間の支援:生活支援と状況変化の連絡先
相談の進め方の例。法的な申立て順序の固定ではない。
親族がいても、申立てを担えない事情を相談する
国の通知は、判断能力が不十分で、身寄りがないなど、本人や親族による申立てを期待できない人のために市町村長申立てを位置付けています。自治体は、親族が実際に申立てを担えるか、本人の権利や暮らしを守る必要があるかを検討します。厚生労働省「市町村長申立ての基本的考え方」
親族が重病、居場所が分からない、長く不在といった事情で対応できない場合があります。親族による虐待が疑われる場合も、具体的な事情を相談窓口へ伝えてください。「家族はいる」の一言だけでは、支援できるかどうかが伝わりません。
市町村長申立てが必要かは、自治体が検討します。本人の判断能力や希望、生活上の支障、ほかの支援を利用できるかを確認するため、相談した全員が対象になるわけではありません。
最初の相談は「誰が困り、何が止まっているか」を伝える
高齢の人は地域包括支援センター、障害のある人は相談支援の窓口、入院中なら病院の相談員など、本人に関わっている支援者へ相談してください。自治体の成年後見担当や中核機関につないでもらう方法もあります。厚生労働省「成年後見はやわかり」
| 伝える情報 | 例 |
|---|---|
| 本人の居場所 | 自宅、病院、施設、住民票の住所 |
| 止まっている手続き | 介護サービス契約、預金管理、住まいの契約 |
| 家族の状況 | 親族の有無、連絡の可否、対応できない事情 |
| 本人の暮らしと希望 | 何を続けたいか、何を嫌がっているか |
| 急ぐ理由 | 支払い期限、退院予定、被害や安全上の懸念 |
たとえば「一人暮らしの知人が心配」だけでなく、「家賃の督促が届いているが、本人は支払ったか分からず、連絡できる親族も把握していない」と説明します。これは架空の相談例です。資料がなくても、相談開始を遅らせず、分かることと未確認のことを分けて伝えましょう。
相談から選任までは、自治体と裁判所が別々に役割を持つ
主な流れは、自治体による本人の状況確認、支援方針の検討、親族等の調査、診断書や財産資料等の準備、家庭裁判所への申立てです。裁判所が審理し、後見人等を選びます。自治体への相談と、裁判所による選任は別の段階です。
鹿児島市は、市長申立ての相談依頼書等を掲載し、提出前に担当窓口へ連絡するよう案内しています。相談様式や担当部署は地域によって違うため、自分の自治体の最新案内を確認してください。鹿児島市「成年後見制度利用支援事業」
書類準備の全体像は成年後見の申立て手順でも確認できます。相談時には、自分で集める資料と、自治体や支援者が調整する資料を聞いてください。
親族の同意待ちで危険を放置しない
国の通知は、親族の意向が確認できないことや、制度利用への同意が得られないことだけで申立事務を中断しないよう示しています。虐待等の緊急事案では、意向調査の省略や、申立てと並行した戸籍調査という取扱いもあります。
どの手順で進めるかは、自治体が事案に応じて判断します。虐待が疑われるときは、先に自治体や支援者へ事情を伝えてください。相談者が独自に親族へ連絡すると、本人の危険が高まるおそれがあります。差し迫った生命・身体の危険がある場合は、成年後見の準備を待たず、警察・救急や自治体の保護につながる対応が必要です。
住民票と施設のある自治体が違う場合
遠方の施設へ入った人では、申立てを担う自治体の調整が必要な場合があります。国のQ&Aは、生活保護や措置の実施機関、介護保険・障害福祉サービスを所管する自治体などを踏まえて整理しています。厚生労働省「市町村長申立てQ&A」
相談時は、住民票の住所、現在地、入院・入所前の居住地、利用しているサービスを伝えてください。担当外と言われたら、次に連絡する自治体・担当部署と、窓口間の調整を担う人を聞きましょう。
申立費用の負担者と、報酬助成の要件を確認する
申立ての担当と、費用の負担者は別です。福岡市は、市が負担した申立費用を原則として後から請求する「求償」を行い、生活保護受給者等には例外を設けています。後見人等の報酬助成は、申立費用と別の要件で確認してください。福岡市「成年後見制度利用支援事業」
本人の収入、預貯金、施設費等を整理し、費用を払えないときの支援も併せて相談してください。
本人の同意が必要な手続きを確認する
親族の同意と、本人の同意は分けて確認してください。現行制度では、本人以外が補助開始を請求する場合、本人の同意が必要です。本人以外が保佐人への代理権付与を請求する場合も、本人の同意が必要です。親族の同意が得られない場合の説明を、本人の意思を無視してよいという意味で読まないようにしましょう。裁判所「補助開始」、裁判所「保佐開始」
市町村長が申し立てる場合も、求める類型や権限、本人への説明方法を確認してください。本人が「支払いを代わってほしい」と話す一方で「通帳を全部渡すのは嫌だ」と言う場合は、別々の意向として記録します。返答が一定しないときは、説明した日時と状況も残しましょう。
「親族がいる」から話が止まったときに聞くこと
親族と連絡が取れる場合も、実際に申立てを担えるかを確認してください。重病、遠方、不在、関係の悪化などにより、誰が何をできないのかを整理します。国の通知は、親族の意向が確認できないことだけで申立事務を中断しないよう示しています。厚生労働省の通知・親族調査
例:遠方に親族がいるが、申立てを担えない場合
近所の人が自治体へ相談したところ、「親族に確認します」と説明を受けました。その後も家賃の支払いが滞っているなら、「誰への確認が残っているか」「本人の生活の支援は先にできるか」「状況が悪化したらどこへ連絡するか」を尋ねます。これは架空の例で、遠方なら必ず市町村長申立てになるという判断基準ではありません。
進み具合は、段階を分けて確認する
現在は相談受付、申立ての検討、裁判所への提出、裁判所での審理のどの段階かを聞いてください。「市に相談済み」と聞いた場合も、その後どこまで進んだかを尋ねましょう。差し支えなく説明を受けられる範囲で、担当窓口と次の作業を確認しましょう。
担当する支援者へ引き継ぐメモは、次のようにまとめられます。共有先を確認し、本人の情報をむやみに広く配らないようにしてください。
相談を受けた窓口・日付:___
現在の段階:状況確認/申立て検討/提出済み/審理中
未確認のこと:親族の対応、判断能力、契約の期限等
次に調整する人・内容:___
その間の支援:支払い、食事、通院、見守り等
状況変化を伝える連絡先:___
自治体同士の調整が必要な場合は、次の相談先と、窓口間の調整を担う人を聞いてください。本人の状態が変わったら、前回の回答を待ち続けず、新しい事情を伝えましょう。
助成の対象外でも、必要な支援を相談する
国の通知は、利用支援事業が未実施であることや助成対象の違いで、必要な市町村長申立てが行われなくなることを避けるよう求めています。費用助成の審査と、本人に権利擁護の支援が必要かの検討は分けて進めます。厚生労働省の通知・利用支援事業との関係
「助成は難しい」と説明された場合も、申立ての必要性、費用の負担者、利用できるほかの生活支援を相談してください。申立ての実施や無料の扱いは、相談しただけで確約されるものではありません。
知り合いが後見人候補者を引き受ければ、すぐ決まりますか?
後見人候補者がいる場合も、裁判所が審理して選任します。本人との関係や利害関係も確認されます。国の通知は、入所先施設の施設長・運営法人を候補者にする場合、利益相反の可能性に留意するよう示しています。同じ組織が生活支援と財産管理を担う理由や、本人の利益を確認する方法を相談してください。厚生労働省の通知・候補者の適切な選任
よくある疑問
友人や近所の人も相談できますか?
本人を心配する友人や近所の人も、地域の窓口へ状況を伝えられます。家庭裁判所の申立人になれるかは、相談することとは別に確認してください。
市長申立てなら市役所が毎日の介護もしますか?
申立てと並行して、介護サービスや日々の見守りを誰が担うかを関係者で相談してください。市長申立てだけで、生活を支える体制が自動で整うわけではありません。
本稿は2026年10月1日時点の現行制度です。2026年成立の改正法は、成年後見の見直しの施行と区別して確認してください。法務省の案内/2026年改正の内容と施行

