子や配偶者などの親族も、家庭裁判所に選任されれば、成年後見人になれます。親の世話や通帳の管理をしていても、それだけで後見人になるわけではありません。家族全員が賛成している場合も、家庭裁判所の選任が必要です。厚労省の担い手の説明
家族後見で考えたいのは、本人をよく知っている強みと、本人の財産を管理・報告する責任を両立できるかです。 費用に加え、管理と報告を続けられる業務量かどうかも確認しましょう。
本文は2026年10月1日時点の現行制度です。2026年6月に成立・公布された改正法の成年後見見直しは、公布から2年6月以内の政令日施行とされています。法務省の改正法案内と2026年の制度改正を参照してください。
図解:家族後見の支出記録

図解の内容を文章で読む
- 財布を分ける:本人と家族の財産を区別して管理
- 理由を残す:日付・金額・用途・支払先を記録
- 資料をそろえる:領収書と立替えの記録を対応させる
- 指示に従い報告:迷う支出は監督する裁判所へ確認
記録方法の例。記録だけで支出が認められるわけではない。
家族を候補者にできる。選任は家庭裁判所が判断する
申立書には後見人等の候補者を記載できます。しかし、本人の法律上の課題、暮らしの支援、財産管理の複雑さなどから、専門職や法人が選ばれることもあります。希望した候補者が選ばれなかったという理由で、不服申立てはできません。裁判所の申立時の留意事項
また、未成年者、復権していない破産者、本人に対して訴訟をした人やその配偶者・親子など、法律上、後見人になれない条件(欠格事由)があります。親族が候補者になる場合も、この条件を確認してください。裁判所の家事事件Q&A「候補者」
家族が候補者になるときは、仕事や健康状態、本人の借金・不動産・相続、親族間の対立、これまでの管理状況を正確に伝えてください。難しい事情も、開始後に必要な支援を考えるための情報になります。
就任後は、暮らしと財産を確認し、裁判所へ報告する
就任後は、本人の希望や暮らしを確認し、必要な金融機関への届出と、財産目録・収支予定表の作成を行います。これらを家庭裁判所等へ報告します。定期報告は一般に年1回ですが、監督する裁判所や監督人の指示に従ってください。厚労省の選任後の業務
| 業務 | 家族が準備する記録の例 |
|---|---|
| 預金等の管理 | 各口座、入出金、残高、支払いの目的 |
| 収支の把握 | 年金、施設費、医療費、住居費 |
| 本人の生活の確認 | 希望、体調、サービスの利用状況 |
| 初回・定期報告 | 財産目録、報告書、通帳写し等 |
| 大きな変化への対応 | 不動産処分、相続、転居等の資料 |
必要な書式は裁判所の報告書式で確認できます。支払いの都度、日付・金額・理由を記録してください。年末に思い出してまとめるより、報告を作りやすくなります。
例えば、子が母の施設代を立て替えた場合は、母の請求書と子の支払い記録を組にして保存します。母の生活費と子の家計を一つの財布で出し入れしていると、誰の支出か説明しにくくなります。本人の財産と家族の財産を区別する管理方法を、就任前から考えておきましょう。
親子が同じ相続人になるときは、代理の手続を確認する
父が亡くなり、母と子が遺産分割をする場面で、子が母の成年後見人でもあると、母と子の利益が相反します。「親子だから話が早い」と、そのまま子が母の代理も兼ねることはできません。
特別代理人の選任など、別の手続が必要になります。成年後見監督人がいる場合の扱いも含め、遺産分割に進む前に家庭裁判所へ確認してください。東京家庭裁判所の利益相反の案内、裁判所の特別代理人等の選任案内
親の取り分が減る協議や、親の財産を自分へ移す取引などがある場合は、候補者として相談する段階で伝えてください。自分が当事者になる取引は、家族内の納得だけでは処理できません。
家族後見人の報酬も、裁判所へ申し立てる
親族後見人も、報酬を受けるための「報酬付与」を家庭裁判所へ申し立てられます。額は裁判所が判断します。介護をしていても、自分で毎月の額を決め、本人の預金から報酬を差し引くことはできません。大阪家庭裁判所のFAQ・報酬付与
生活支援の実費と後見人の報酬は分けて記録します。何が本人負担の実費になるか判断しにくい支出は、資料を用意し、監督する裁判所に確認してください。
病気や高齢で続けられないときは、辞任の手続をする
後見人を辞任するには、正当な事由を示し、家庭裁判所の許可を得る必要があります。辞めると後見人が不在になる場合は、後任選任の申立ても同時に行ってください。家族同士で交代を決めて通帳を渡すだけでは、正式な交代になりません。裁判所の辞任許可の案内
後見人の辞任と、制度自体の終了は分けて考えてください。引継ぎの時期と必要書類を、早めに相談しましょう。
不正な財産管理など、任務に適さない事情があれば解任の対象になります。大阪家庭裁判所の解任手続。業務の負担が大きいときは、どの作業で困っているかを早めに伝えてください。
候補者になる前に相談する五つの項目
- 月々の管理と報告に使える時間はどのくらいか
- 本人の通帳・保険・不動産・借金を把握できるか
- 自分や兄弟姉妹との利益相反が予想されるか
- 本人の希望を家族の希望と区別して説明できるか
- 病気や転居で続けられない場合、どこへ相談するか
例:同居する子が後見人になったときの支出記録
以下は、家計の整理を考えるための架空の例です。母と長男が同居し、長男が母の成年後見人になりました。食料品を一緒に買い、病院への交通費も長男が立て替えています。これまで財布を分けていなかったため、母の支出がいくらか説明できません。
最初に、支払先や用途が明確なものから区別します。母の診療費と長男の診療費、母の衣類と長男の衣類を、それぞれ記録します。本人と後見人の財産は区別して管理し、収支記録と領収書等を保管するという原則は、静岡家庭裁判所の手引で確認できます。
共同の食費や光熱費は、家族が任意に全額を母へ負担させるのではなく、現在の負担、同居状況、本人の収入等を整理し、扱いが不明なら監督する家庭裁判所へ確認します。以下の数字は記録方法の例で、負担割合や適正な支出額を示すものではありません。
| 日付 | 金額 | 用途・誰の費用か | 保存するもの |
|---|---|---|---|
| 10月3日 | 2,400円 | 母の診療費。長男が立替え | 病院の領収書、立替記録 |
| 10月5日 | 3,000円 | 母が希望した衣類 | レシート、購入の理由 |
| 10月7日 | 6,000円 | 母と長男の共同の食料品 | レシート、負担の扱いの確認記録 |
立替金を返すときも、元の支出と返した金額が対応するように残します。用途不明の「生活費」として毎月まとめて振り替えるより、本人のための支出が追える記録を目指しましょう。
「本人が言ったこと」と「家族が望むこと」を二列にする
母が「週一回、友人と会いたい」と希望し、長男は「外出すると転ぶのが心配」と考えているとします。希望と心配を分けて書くと、本人の願いを否定するだけでなく、同行や移動手段を相談できます。
記録には、本人の発言、確認した日、理解しやすい説明をどう工夫したか、家族や介護担当者の意見を残します。本人の意思を推定した場合は、現在の意思を聞けた場合と区別し、過去の言葉や生活歴などの根拠を添えます。厚労省の意思決定支援の説明
家族が本人を長く支えてきたことは、本人の希望を知る手掛かりになります。一方で「親のため」を理由に、自分の希望を本人の希望として記載しないことも、家族後見の大切な準備です。
報告を作る時間より、資料を探す時間を減らす
記録の保管は、月ごとの封筒やフォルダーでも構いません。通帳の写し、請求書、領収書、本人の生活上の変化を月単位でそろえ、裁判所の指定された様式に必要な内容を移します。
「本人の状態は変わらない」と考えていても、通院先、施設費、面会時の希望などに変化がないか確認します。提出期限、提出する範囲、監督人への報告は各指示に従います。東京家庭裁判所の初回・定期報告案内
整理が難しいときは、「どの支出の扱いがわからないか」「どの資料がないか」を具体的に伝え、報告方法を相談してください。家族に事実の整理を手伝ってもらっても、後見人としての判断・報告の責任は、自動的に家族へ移りません。
相談で迷いやすい質問
領収書をなくした支出は、なかったことにしますか?
支出を記録に残し、日付・金額・支払先・用途と、領収書がない理由を整理してください。別の資料で確認できるかを調べ、監督する裁判所へ報告方法を聞きましょう。記録があることと、その支出が認められることは別です。
兄弟姉妹が通帳を見せるよう求めたら、必ず渡しますか?
親族への情報共有と、家庭裁判所等への正式な報告は別です。争いを避けたい場合は、求められている情報、本人の希望、個人情報を含む範囲を整理し、後見人の立場でどう対応するか相談しましょう。
よくある質問
家族が選ばれなかったら、親との面会や介護もできなくなりますか?
家族が担う介護・面会などの生活支援と、後見人の契約・財産管理を分け、連絡方法を相談してください。後見人の選任によって、介護や面会をすべて後見人だけに任せるわけではありません。
専門職が選ばれた場合の費用を先に知りたいです
初期費用と継続報酬を分けて確認しましょう。成年後見制度の費用と制度のデメリットで、申立て前の判断材料を整理しています。

