相続人の中に連絡のつかない人がいると、遺産分割協議は全員参加が原則のため進められません。まず戸籍の附票で住所を調べて手紙を送り、それでも所在が分からなければ、家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任を申し立てます。選任された管理人が、裁判所の許可(権限外行為許可)を得て、行方不明の相続人に代わって遺産分割に参加します。生死が7年以上分からない場合は「失踪宣告」という方法もあります。
情報確認日:2026年10月8日。郵便切手の額や予納金、必要書類は家庭裁判所ごとに違います。申立先の裁判所の案内を確認してください。
手続きの前に用意するもの
- 亡くなった親の出生から死亡までの戸籍と、相続人全員の戸籍
- 行方不明の相続人の戸籍と戸籍の附票(住所の履歴が分かります)
- 送った手紙が戻ってきた封筒、親族への聞き取りメモなど、連絡を試みた記録
- 遺産の一覧(預貯金の残高、不動産の評価額など)
- 管理人の候補者がいる場合は、その人の住民票
1. 戸籍の附票で最後の住所を調べ、連絡を試みる
相続人は、相続手続きのために他の相続人の戸籍の附票を取ることができます。本籍地の市区町村に、相続人であることを示す戸籍を添えて請求します。附票には住所の移り変わりが載っているため、最新の住所が分かることがあります。
住所が分かったら、事情を説明する手紙を送ります。返事がなくても、住所に住んでいるなら「行方不明」ではありません。協議に応じてもらえない場合は、家庭裁判所の遺産分割調停を使います。
「〇〇(親)が〇月〇日に亡くなり、相続の手続きを進めています。あなたも相続人の一人です。遺産の内容と分け方の案を同封しましたので、〇月〇日までにご連絡をお願いします。連絡先は〇〇です」
ここまでの完了目安:住所を確認して連絡を試み、届いたか・戻ってきたかの記録が残った。
2. 所在不明の状況と遺産の内容を整理する
手紙が「あて所に尋ねあたりません」で戻った、附票の住所に住んでいる様子がない、親族も行き先を知らない、といった事実を時系列でメモにします。この記録は、申立てのときに「不在の事実」を示す資料になります。
あわせて、遺産の種類と金額を一覧にします。後で裁判所が予納金を決めるときや、管理人が分割案を検討するときに使います。
ここまでの完了目安:連絡を試みた経過と、遺産の一覧がまとまった。
3. 不在者財産管理人の選任を家庭裁判所に申し立てる
申し立てられるのは、ほかの相続人など利害関係のある人です。申立先は、行方不明の人の従来の住所地または居所地を管轄する家庭裁判所です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申立手数料 | 収入印紙800円分 |
| 郵便切手 | 裁判所ごとに異なる |
| 主な書類 | 申立書、不在者の戸籍・戸籍の附票、不在の事実を示す資料、利害関係を示す資料(戸籍など)、財産の資料、管理人候補者の住民票 |
| 予納金 | 管理費用や管理人の報酬に充てるため、裁判所が必要と判断した場合に納める。例として札幌家庭裁判所は原則30万〜50万円と案内 |
管理人には、親族が候補になることもありますが、利害が対立する相続人は選ばれにくく、弁護士や司法書士が選任されることも多くあります。
ここまでの完了目安:申立書を提出し、予納金の連絡に対応した。
4. 選任された管理人と遺産分割案を協議する
管理人は、行方不明の相続人の財産を守る立場です。そのため、行方不明の人に不利な分割案には同意しにくく、原則として法定相続分を確保する内容が求められます。
実家を特定の相続人が取得したい場合は、その分を代償金で行方不明者側に支払う案などを管理人と相談します。支払った代償金は、管理人が行方不明者の財産として管理します。
ここまでの完了目安:管理人と合意できる遺産分割案ができた。
5. 管理人が権限外行為許可を得て、遺産分割協議書に署名する
不在者財産管理人が遺産分割協議に応じるのは、通常の管理を超える行為です。管理人は、選任した家庭裁判所に「権限外行為許可」を申し立て(収入印紙800円分)、許可を得てから協議書に署名します。
許可が出たら、相続人全員と管理人が遺産分割協議書に署名・押印します。管理人の分には、選任審判書と権限外行為許可の審判書の謄本を添付書類として使います。
ここまでの完了目安:許可の審判書と、全員の署名がそろった遺産分割協議書がある。
6. 相続手続きを進め、行方不明者の取り分の管理を確認する
協議書と審判書を使って、預貯金の解約や相続登記を進めます。行方不明者の取り分は、管理人が管理し、本人が見つかれば引き継ぎます。
管理人の仕事は、本人が現れる、死亡が分かる、財産がなくなるなどの事情があるまで続きます。終了の見通しや報酬の支払いについては、管理人と家庭裁判所の説明を確認してください。
ここまでの完了目安:相続手続きが完了し、行方不明者の取り分の管理方法を確認した。
失踪宣告を選ぶ場合
生死が7年以上分からないときは、家庭裁判所に失踪宣告を申し立てると、法律上は死亡したものとみなされます。その人に子などの相続人がいれば、その相続人が遺産分割に参加することになります。公告期間があるため、結論まで時間がかかります。管理人の選任とどちらが合うかは、家庭裁判所や専門家に相談してください。
所在を調べるときにできること
- 戸籍の附票・住民票の除票:住所の移り変わりと、転出先が分かります。
- 親族・知人への聞き取り:最後に連絡を取った時期や勤務先、よく行っていた場所を記録します。
- 海外にいる可能性がある場合:外務省の所在調査を利用できる場合があります。申請できる人や対象は外務省の案内で確認してください。
- 家族が心配な場合:警察へ行方不明者届を出すことも検討します(相続手続きとは別の手続きです)。
費用と期間の見通し
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 申立ての実費 | 収入印紙800円、郵便切手、戸籍等の取得費 |
| 予納金 | 裁判所が遺産の内容などから決める。管理人の報酬等に充てられ、残れば返還されることがある |
| 権限外行為許可 | 収入印紙800円(管理人が申し立てる) |
| 期間 | 申立てから選任、許可、協議書の作成まで、数か月以上かかることがある |
相続税の申告が必要な場合は、申告期限(10か月)までに分割がまとまらない見込みになることもあります。早めに税理士へ相談し、未分割での申告も視野に入れておきましょう。
よくある質問
行方不明の相続人を除いて遺産分割してもいいですか?
できません。相続人の一人でも欠けた遺産分割協議は無効です。銀行や法務局でも手続きを受け付けてもらえません。
相続登記の期限に間に合いそうにありません。
相続人申告登記をすれば、相続登記の申請義務を果たしたことになります。管理人の選任を待つ間に済ませておきましょう。
実家を自分が取得したいとき、行方不明者との共有にするしかないですか?
行方不明者の法定相続分に見合う代償金を支払えば、実家を一人で取得する分割が認められる可能性があります。代償金の額や支払い方法は、管理人と相談し、裁判所の許可を受けて決めます。

