親が通帳や支払いを何度も忘れる、契約の内容を説明できない、訪問販売や不審な電話を心配するようになった。そんなとき、家族は「認知症かどうか」を急いで決めるより、まず安全と生活の困りごとを確認します。
特に注意したいのは、親の名前で家族が口座からお金を引き出したり、契約を解約したり、不動産を売却したりすることです。家族だからという理由だけで、親に代わってすべての手続きができるわけではありません。
この記事では、親の判断能力に不安を感じたときに、家族が確認する順番と相談先を整理します。認知症の診断や個別の法律判断を行う記事ではありません。体調、契約、財産、家族関係に応じて、医療機関、自治体、金融機関、専門家へ確認してください。
まずは安全と相談先を確認する
急な意識の変化、転倒、けが、呼吸の苦しさなどがある場合は、手続きより医療上の対応を優先します。急に親が倒れたときの初動は、親が倒れた直後に確認することで整理しています。
急性の症状ではなく、生活上の変化が続いている場合は、かかりつけ医や地域包括支援センターへ相談します。厚生労働省も、認知症かもしれないと感じたときの相談先として、地域包括支援センターなどを案内しています。
相談するときは、家族の評価だけでなく、次のような事実をメモして伝えます。
- いつから、どの場面で変化があったか
- 服薬、食事、火の始末、運転、金銭管理で困ったこと
- 失くした物、同じ契約を重ねたこと、不審な請求の有無
- 親本人が何を不安に感じ、何を希望しているか
- 一人暮らしか、近くで見守れる家族がいるか
本人の尊厳や希望に関わるため、「家族が困っていること」と「本人が望んでいること」を分けて記録します。
親が内容を理解して判断できる間に確認すること
親が契約内容や財産の状況を理解し、自分の希望を説明できる場合は、本人と一緒に次の情報を確認します。
口座・保険・年金・毎月の支払い
金融機関名や保険会社名を、通帳、郵便物、請求書、スマートフォンの明細などから確認します。暗証番号を家族で共有するのではなく、どの支払いがどの口座から行われているかを一覧にします。
確認する項目の例は次のとおりです。
- 預貯金、証券、保険、年金の受取先
- 家賃、施設費、医療費、公共料金、通信費
- クレジットカード、電子マネー、定額サービス
- 住宅ローン、借入、保証債務の有無
- 通帳、印鑑、保険証券、権利証などの保管場所
家族が手続きを代わる場合でも、委任状で対応できるか、金融機関所定の代理手続きが必要かは契約先によって異なります。親本人の同意があるからといって、すべての契約で同じ方法が使えるとは限りません。先に金融機関や契約先へ確認します。
家や土地をどうするか
親が施設へ入ったとしても、自宅の所有権が子どもへ移るわけではありません。売却、賃貸、解体、担保設定などを考えるときは、登記名義、親本人の希望、判断能力、維持費、相続人を確認します。
実家の管理については、親の家が空き家になるときの手続きも参照してください。親が存命の場合と、親が亡くなった後では、家族ができる手続きと確認事項が変わります。
契約内容を理解することが難しいとき
認知症などにより、契約の内容や結果を理解して判断することが難しい場合は、家族が親の名前を使って手続きを進めるのは避けます。通帳やカードを持っていること、近くで介護していること、費用を立て替えていることだけで、親の財産を自由に処分できるわけではありません。
次のような手続きを急がないことが大切です。
- 親名義のカードや暗証番号を使った出金
- 不動産の売却、賃貸、解体、名義変更
- 高額な契約の締結や解約
- 相続を見越した贈与や財産の移動
- 親族に相談しないままの家財・証券・契約書の処分
すでに不審な契約や出金がある場合は、契約書、明細、日時、相手先、親本人の説明を記録したうえで、契約先や金融機関、消費生活センター、地域包括支援センター、弁護士など、内容に合う相談先へ早めに確認します。
成年後見制度などの選択肢
判断能力が低下した本人を法律的に支援する制度として、成年後見制度があります。法定後見には、判断能力の程度に応じて後見、保佐、補助の類型があります。申立先や必要書類は、本人の住所地を管轄する家庭裁判所へ確認します。
任意後見制度
親が十分に判断できる段階で、将来、判断能力が不十分になった場合に任せる人や事務の内容を決めておく制度です。任意後見契約は公正証書で作成し、家庭裁判所が任意後見監督人を選任したときに効力が生じます。
「家族を任意後見人にしておけば、すぐに何でも代わりにできる」という制度ではありません。委任する事務の範囲、監督の仕組み、費用、親本人の希望を確認してから公証役場などへ相談します。
法定後見制度
すでに判断能力が不十分になり、契約や財産管理に支援が必要な場合に、家庭裁判所へ申立てを行う制度です。家族が希望した人が必ず後見人に選ばれるとは限らず、本人の財産や生活の状況に応じて家庭裁判所が判断します。
日常生活自立支援事業
日常生活の範囲で、福祉サービスの利用援助や日常的な金銭管理を支援する制度もあります。厚生労働省によると、利用者本人との契約にもとづく事業で、契約内容を理解できる能力が必要です。窓口は市区町村の社会福祉協議会などです。
成年後見制度と日常生活自立支援事業は、対象や権限が同じではありません。家族だけで決めず、地域包括支援センターや社会福祉協議会へ、親の状態と困っている手続きを具体的に伝えます。
親の自宅を売る・貸す・解体する場合
成年後見人などが本人の居住用不動産を処分する場合は、家庭裁判所の許可が必要になることがあります。本人が現在は病院や施設にいて住んでいなくても、将来住む可能性がある自宅や、入所前に住んでいた自宅が対象に含まれる場合があります。
施設費が必要だからといって、家族が先に売買契約を結ぶのではなく、まず登記名義、本人の意思、成年後見制度の必要性、家庭裁判所の許可の要否を確認します。空き家の管理や売却の比較は、実家じまい・空き家で先に確認することにもまとめています。
最初の相談までに作る確認表
相談先へ行く前に、次の項目を一枚にまとめます。個人情報を含む書類を、不要な相手へ送信しないよう注意してください。
- 親の氏名、住所、連絡先、同居・別居の状況
- 気になった出来事の日付と具体的な内容
- 受診中の医療機関、服薬、介護認定の有無
- 口座、保険、年金、カード、定額契約の一覧
- 家や土地の名義、固定資産税、住宅ローンの有無
- 現在困っている手続きと、いつまでに必要か
- 親本人の希望、家族の希望、意見が一致していない点
- すでに行った出金、契約、解約、財産の移動
相談時は、マイナンバー、暗証番号、カード番号全桁、診療情報などを、問い合わせフォームへそのまま送らないようにします。必要書類は、相談先から指定されたものだけを準備します。
相談先を分ける
| 困っていること | 最初の相談先 |
|---|---|
| 物忘れ、生活上の変化、介護の相談 | かかりつけ医、地域包括支援センター |
| 日常の支払い、福祉サービス利用の援助 | 市区町村の社会福祉協議会、地域包括支援センター |
| 成年後見の申立て、後見人の権限 | 家庭裁判所、弁護士、司法書士 |
| 口座の代理手続き、支払い方法 | 取引金融機関の相談窓口 |
| 家や土地の名義、売却・解体 | 法務局、自治体の空き家窓口、司法書士、土地家屋調査士、宅地建物取引業者 |
| 不審な契約、訪問販売、請求 | 消費生活センター、地域包括支援センター、弁護士 |
まとめ
親の判断能力に不安を感じたときは、家族がすぐに財産を管理するのではなく、まず安全、本人の希望、生活上の事実を確認します。そのうえで、地域包括支援センターや医療機関に相談し、口座や契約先の代理手続きを確認します。
判断能力が不十分な場合は、任意後見、法定後見、日常生活自立支援事業など、困っている手続きに合う制度を検討します。家族だけで出金、解約、売却、解体を進めず、必要な権限と相談先を確認してから動くことが、後のトラブルを減らします。
関連する記事
参考にした公的情報
- 厚生労働省「認知症に関する相談について」
- 厚生労働省「日常生活自立支援事業」
- 法務省「成年後見制度・成年後見登記制度」
- 法務省「任意後見制度について」
- 裁判所「成年被後見人(被保佐人、被補助人)の居住用不動産の処分についての許可」
※この記事は、親の判断能力に不安を感じた家族が、確認事項と相談先を整理するための一般的な情報です。認知症の診断、成年後見の申立て、契約の有効性、財産の処分、医療・介護の判断は、本人の状態と個別事情によって異なります。実際の手続きは、医療機関、自治体、家庭裁判所、金融機関、関係する専門家へご確認ください。


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