相続放棄の期限は3か月|必要書類と家庭裁判所への手順

Featured image 180 2259ecc09d4141a32a577d4853d5d14f.png 相続・遺言・死後手続き

亡くなった親に借金があるかもしれない。実家は残っているが、預金や負債の全体が分からない。そんなとき、遺産を受け取らない選択肢の一つが相続放棄です。

相続放棄は、家庭内で「私は何もいらない」と伝えるだけでは成立しません。家庭裁判所へ申述し、受理される必要があります。期限は原則3か月です。ただし、常に死亡日から数えるとは限りません。

この記事では、期限の起算点、提出先、費用、必要書類、手続の流れと、判断が終わるまで避けたい行為を整理します。

相続放棄は財産も借金も引き継がない手続

相続が始まると、相続人には大きく3つの選択肢があります。

選択肢内容家庭裁判所の手続
単純承認預金や不動産などの権利と、借金などの義務をすべて引き継ぐ原則として申述は不要
相続放棄被相続人の権利と義務を一切引き継がない相続放棄の申述が必要
限定承認相続で得た財産の限度で債務を負担する相続人全員が共同して申述する必要がある

相続放棄をすると、借金だけでなく、預金、土地、建物などのプラスの財産も相続できません。財産ごとに「実家は放棄するが預金は受け取る」と選ぶ手続ではありません。

遺産分割協議で自分の取得分をゼロにすることと、家庭裁判所での相続放棄は別です。借金を含めて相続人の立場から離れたい場合は、家庭裁判所の手続が必要です。

3か月は「自分が相続人になったと知った時」から

裁判所は、相続放棄の申述期間を「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内」と案内しています。

多くの場合、親の死亡を知った時に子が相続人であることも分かるため、その時から3か月を数えます。一方、親族と長く疎遠で死亡を後から知った場合や、先順位の相続人が全員放棄したことで後順位の人が相続人になった場合は、起算点が死亡日と一致しないことがあります。

裁判所の家事事件Q&Aは、次の2つを知った時から3か月以内と説明しています。

  • 被相続人が亡くなったこと
  • その死亡によって自分が法律上の相続人になったこと

起算点に争いがありそうな場合は、自分で日付を決めつけないでください。死亡を知った通知、先順位者の放棄を知った書類、債権者から届いた封筒や通知書を保管し、早めに弁護士へ相談します。

3か月で決められなければ期限前に伸長を申し立てる

不動産が複数ある、事業の債権・債務が分からない、遠方で調査に時間がかかるなど、3か月以内に判断材料がそろわないことがあります。

その場合、3か月の期限が過ぎる前に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ「相続の承認又は放棄の期間の伸長」を申し立てる方法があります。

期間伸長は、書類を出せば必ず認められるものではありません。家庭裁判所が事情を確認して判断します。相続人が複数いる場合、熟慮期間は相続人ごとに進むため、誰について伸長を求めるのかも確認します。

期限後に借金が見つかった場合でも、事情によって相続放棄の申述が受理されることはあります。しかし例外的な判断を前提に待つべきではありません。3か月を過ぎた、または残り日数が少ない場合は、直ちに弁護士と管轄の家庭裁判所へ確認してください。

判断が終わるまで遺産を勝手に処分しない

相続財産を処分すると、相続を単純承認したと扱われ、相続放棄が認められなくなるおそれがあります。

相続放棄を検討している間は、次の行為を自己判断で進めないでください。

  • 被相続人の銀行口座を解約し、自分の口座へ移す
  • 土地、建物、自動車、貴金属などを売却する
  • 家財を価値の確認なしに処分する
  • 被相続人の財産から一部の債権者だけへ返済する
  • 賃料や売却代金を自分のために使用する
  • 遺産分割協議書へ急いで署名する

葬儀費用、医療費、公共料金、家の片付けなどは、目的、金額、支払方法、遺産の状況によって判断が分かれることがあります。被相続人の預金から支払う前に、専門家へ確認してください。

郵便物や請求書を保管する、財産目録を作る、建物の危険を防ぐために最低限の措置を取るなど、調査や保存のための行為まで一律に禁止されるわけではありません。ただし、保存と処分の境界が分からない行為は先に相談します。

最初にプラスとマイナスの財産を調べる

3か月は、相続財産の調査と選択のための期間です。通帳だけで判断せず、権利と債務を並べて確認します。

プラスの財産

  • 預貯金、現金、有価証券、投資信託
  • 土地、建物、共有持分
  • 自動車、貴金属、売掛金、貸付金
  • 未収の給与、還付金
  • 事業用資産や知的財産権

国民年金・厚生年金の未支給年金は、通常の相続財産とは分けて確認します。亡くなった人と死亡当時に生計を同じくしていた一定の遺族が、自分の権利として請求する給付です。相続放棄をしても、続柄・生計同一・請求順位などの要件を満たせば請求できます。国民年金については、江東区の未支給年金の案内でも、相続放棄した遺族の請求が認められることを説明しています。

ただし、旧三共済(JR・JT・NTT)・農林共済年金の未支給分は取扱いが異なり、日本年金機構の請求案内(PDF・4ページ)では相続放棄した人を対象から除いています。年金ならすべて受け取れると判断せず、年金証書の制度名と支給元を確認してください。手続きは親が亡くなった後の年金・未支給年金の請求で整理しています。亡くなった人の口座に残る預金の引き出しとは分け、受け取り方も支給元へ確認します。

マイナスの財産

  • 住宅ローン、カードローン、消費者金融
  • クレジットカードの未払金
  • 税金、社会保険料、家賃、医療費の未払分
  • 連帯保証や事業上の保証債務
  • 個人間の借入れ、未払の工事代金

確認に使う資料

  • 通帳、キャッシュカード、証券会社や金融機関からの郵便
  • 固定資産税の納税通知書、登記事項証明書
  • 借入契約書、返済予定表、督促状
  • クレジットカードの利用明細
  • 確定申告書、事業帳簿、請求書
  • メール、スマートフォン、郵便物に残る契約情報

信用情報機関への開示請求など、本人死亡後の手続には相続関係を示す書類が必要になることがあります。調査方法が分からない、連帯保証の可能性がある、個人事業をしていた場合は、早い段階で弁護士や司法書士へ相談します。

借金調査は郵便物・通帳・信用情報の順に進める

最初に、督促状、ローンの返済予定表、クレジットカードの利用明細、税金や社会保険料の通知を日付順に分けます。通帳では、借入先からの入金だけでなく、毎月の返済、カード代金、保証料、事業関係の支払いも確認してください。封筒は捨てず、差出人、受取日、請求額、支払期限を一覧にします。

書類や通帳だけで契約を特定できない場合は、信用情報機関への開示を検討します。CICは法定相続人、JICCは法定相続人または2親等以内の血族等、全国銀行個人信用情報センターは法定相続人等による死亡後の開示手続きを案内しています。申込みできる人、必要書類、手数料、申込方法は機関ごとに違うため、各機関の最新案内を使ってください。

3機関の開示結果を集めても、税金、社会保険料、家賃、医療費、個人間の借入れ、連帯保証、事業上の未払金まで一括して確認できるわけではありません。信用情報機関は加盟会社から登録された情報を開示する仕組みで、開示報告書に記載がないことだけを理由に「借金はない」と判断しないでください。判明した金融機関や債権者には、残高、契約番号、保証の有無、今後の連絡方法を書面で確認します。

調査が3か月以内に終わらない場合、信用情報の回答を待っているだけで期限が自動的に延びることはありません。裁判所は、相続財産を調べても承認・限定承認・放棄を決められないとき、家庭裁判所へ熟慮期間の伸長を申し立てる手続きを案内しています。期限前に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ確認してください。

提出先は亡くなった人の最後の住所地の家庭裁判所

相続放棄の申述先は、申述する人の住所地ではなく、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。

裁判所ウェブサイトの「裁判所の管轄区域」から、家庭裁判所と支部を確認できます。郵送で提出する場合は、申述期間内に届く必要があると案内している裁判所もあるため、締切直前の投函は避けます。

提出先が分からないときは、被相続人の住民票除票や戸籍附票で最後の住所を確認し、候補の家庭裁判所へ問い合わせます。

費用は1人800円の収入印紙と連絡用郵便料

裁判所の全国共通案内では、相続放棄をする人1人につき収入印紙800円分が必要です。別に、裁判所との連絡に使う郵便切手または郵便料を納めます。

郵便料と納付方法は家庭裁判所ごとに異なります。古い案内の切手額をそのまま用意せず、提出先の最新案内を確認してください。

受理後、債権者や金融機関などへ提出する相続放棄申述受理証明書が必要な場合は、別途交付申請を行います。証明書は1通につき収入印紙150円と案内されています。

必要書類は亡くなった人との関係で変わる

全国共通案内で示されている基本書類は次のとおりです。

書類確認事項
相続放棄申述書成人用・未成年者用の書式と記載例がある
被相続人の住民票除票または戸籍附票最後の住所地を確認する
申述人の戸籍謄本放棄する本人の戸籍
被相続人の戸籍類死亡と相続関係を確認する。必要範囲は続柄で変わる
収入印紙・郵便料申述人1人につき800円。郵便料は裁判所ごとに確認

配偶者や子が申述する場合と、父母・祖父母、兄弟姉妹、おい・めいが申述する場合では、必要な戸籍の範囲が違います。後順位になるほど、先順位者がいないことを確認する戸籍が追加されます。

裁判所は、申述前に入手できない戸籍などがある場合、申述後の追加提出でも差し支えないと案内しています。期限が迫っているのに、すべての戸籍がそろうまで申述書を出さずに待つのは危険です。提出先へ不足書類の扱いを確認します。

申述後は裁判所からの照会に必ず回答する

一般的な流れは次のとおりです。

  1. 相続財産と債務を調査する
  2. 被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所を確認する
  3. 申述書、戸籍類、住民票除票などを準備する
  4. 収入印紙と連絡用郵便料を添えて提出する
  5. 家庭裁判所から照会書や追加書類の案内が届いたら期限内に回答する
  6. 受理の通知を受け取り、必要なら受理証明書を申請する
  7. 債権者から請求を受けている場合は、受理されたことを連絡する

申述書を提出しただけで手続が終わるわけではありません。家庭裁判所が事情を確認するため、書面で照会したり、直接質問したりする場合があります。裁判所からの照会や呼出しには必ず応じます。

自分が放棄すると次の順位の親族が相続人になる場合がある

子など先順位の相続人全員が相続放棄すると、被相続人の父母・祖父母、その次に兄弟姉妹やその代襲相続人が相続人になる場合があります。

相続放棄は一人ずつ行う手続です。自分が放棄しても、ほかの相続人の放棄が自動的に完了するわけではありません。後順位の親族が、突然届いた請求で相続開始を知ることもあります。

法律上の通知義務の有無とは別に、分かる範囲で次順位になり得る親族へ事実を共有し、各人が期限を確認できるようにします。疎遠で連絡先が分からない場合や、親族関係が複雑な場合は専門家へ相談してください。

専門家への相談を急ぎたいケース

次のケースは、書式を埋める前に弁護士などへ相談したほうが安全です。

  • 3か月を過ぎた、または期限まで数日しかない
  • 相続財産から預金を引き出した、借金を返した、家財を売った
  • 多額の借金、連帯保証、事業債務が疑われる
  • 不動産や会社持分が複数あり、評価や処分が難しい
  • 相続人の中に未成年者や成年被後見人がいる
  • 先順位者の放棄で突然相続人になった
  • 海外在住者や外国籍の相続人がいる
  • 限定承認も比較したい
  • 債権者から訴状、督促、差押えに関する書類が届いた

家庭裁判所は手続の案内をしますが、どの選択が有利かという個別の法律判断を代わりに決める場所ではありません。判断に迷う場合は、弁護士会や法テラスなどの法律相談も利用します。

相続放棄を検討するときの確認表

  • 被相続人の死亡を知った日を記録した
  • 自分が相続人になったと知った日を記録した
  • 3か月の期限をカレンダーに入れた
  • 被相続人の最後の住所地を確認した
  • 預金、不動産、有価証券などを調べた
  • 借入れ、税金、保証債務、未払金を調べた
  • 債権者からの通知書と封筒を保管した
  • 被相続人の財産を売却・解約・使用していない
  • 期限内に調査が終わらない場合の期間伸長を検討した
  • 家庭裁判所の最新の必要書類と郵便料を確認した
  • 申述人の続柄に応じた戸籍の範囲を確認した
  • 裁判所からの照会に回答できる連絡先を記載した
  • 受理通知書を保管し、必要なら受理証明書を申請した
  • 次順位になり得る親族へ事実を共有した
  • 期限超過や財産処分がある場合は弁護士へ相談した

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参考にした公的情報

本記事は2026年8月23日時点の公的情報をもとに、一般的な手続を整理したものです。個別の事情に対する法律判断ではありません。申述期間、起算点、財産処分の影響、必要書類は事案や裁判所によって異なるため、管轄の家庭裁判所と法律専門家へご確認ください。

未支給年金と相続放棄の関係、旧三共済・農林共済年金の例外は、2026年8月31日に公的資料で確認しました。本文全体の確認日を更新するものではありません。

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