親の転倒を防ぐために手すりを付けたい。玄関や浴室の段差をなくしたい。こうした小規模な工事には、介護保険の「住宅改修費」を使える可能性があります。
支給限度基準額は原則として1人20万円です。1割負担の人なら最大18万円、2割負担なら最大16万円、3割負担なら最大14万円が介護保険から支給されます。ただし、着工前に市区町村へ申請し、内容確認の結果を受けてから工事を始めるのが原則です。見積書や理由書を提出しただけで着工せず、市区町村から案内された着工可能日を施工事業者と共有してください。先に工事を始めると、対象工事でも支給されないおそれがあります。
この記事では、対象になる工事、対象外になりやすい工事、20万円枠の数え方、事前・事後申請の流れを整理します。見積書を取る前から工事完了後まで、家族が確認できるチェックリストも用意しました。
住宅改修費の基本を先に確認
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象者 | 要支援1・2または要介護1~5の認定を受け、原則として自宅で生活する人 |
| 支給限度基準額 | 要介護度にかかわらず原則1人20万円 |
| 自己負担 | 負担割合証に応じて対象費用の1~3割 |
| 対象住宅 | 介護保険被保険者証に記載された住所の住宅が基本 |
| 申請時期 | 原則として工事前と工事完了後の2回 |
| 相談先 | 市区町村の介護保険窓口、ケアマネジャー、地域包括支援センター |
契約・着工前に確認する5点
- 予定する工事が介護保険の対象になるか
- 20万円の支給限度基準額がいくら残っているか
- 「住宅改修が必要な理由書」を誰に作成してもらうか
- 工事前写真の日付・撮影位置など自治体の条件
- 償還払いと受領委任払いのどちらを利用できるか
申請書の様式、必要な写真、所有者承諾書、審査にかかる期間は自治体によって異なります。工事日や契約日を先に確定せず、本人の住所地の介護保険窓口で確認してください。
住宅改修費は、単に家を便利にするための補助ではありません。本人の身体状態と住環境に照らし、転倒を防ぐ、移動や排泄を自分で行いやすくする、介助者の負担を減らすといった目的が必要です。
まだ要介護認定を受けていない場合は、要介護認定の申請手順を先に確認してください。認定申請中に工事を急ぐ場合は、認定結果によって自己負担になる可能性があるため、市区町村へ事前に相談します。
介護保険の対象になる6区分
| 工事区分 | 具体例 | 確認したい点 |
|---|---|---|
| 手すりの取付け | 廊下、階段、トイレ、浴室、玄関、屋外通路の手すり | 立ち上がり、移乗、歩行のどの動作を支えるか |
| 段差の解消 | 敷居の撤去、床のかさ上げ、固定スロープの設置 | 新たなつまずきや傾斜の危険が生じないか |
| 床・通路面の材料変更 | 滑りにくい床材、畳から板材、屋外通路の舗装 | 滑り防止や車いす移動に必要か |
| 扉の取替え | 開き戸から引き戸・折れ戸、ドアノブの変更 | 開閉動作や車いす通行を改善するか |
| 便器の取替え | 和式便器から洋式便器への取替え | 水洗化部分や便座機能だけの追加は対象外になり得る |
| 付帯工事 | 手すりの下地補強、扉交換に伴う壁・柱の補修 | 上記5工事に直接必要な範囲か |
厚生労働省は、対象工事として「手すりの取付け」「段差の解消」「床又は通路面の材料変更」「扉の取替え」「便器の取替え」と、それらに付帯して必要な工事を示しています。詳しい取扱いは厚生労働省「福祉用具・住宅改修」で確認できます。
対象外になりやすい工事
- 老朽化した壁、床、屋根などの修繕
- 本人の動作改善と直接関係しない全面リフォーム
- 新築や増築に合わせて行う工事
- 既に洋式便器がある場合の温水洗浄便座の追加
- 和式便器を水洗化するための工事費
- 工事を伴わない置き型手すりや持ち運び式スロープ
- 本人が生活していない別宅や家族宅の改修
- 市区町村の事前確認を受ける前に着工した工事
工事を伴わない手すりやスロープは、住宅改修ではなく福祉用具貸与の対象になる場合があります。区別に迷ったら、前の記事福祉用具レンタルと購入の違いも確認してください。
本人のために必要な工事と、家全体の修繕を同時に行うことはできます。ただし、介護保険の対象になる部分と対象外部分を見積書で分ける必要があります。たとえば浴室全体を改装する場合でも、段差解消や滑りにくい床材への変更など、本人の動作に必要な部分だけが支給対象となります。
20万円は工事ごとではなく本人ごとの累計
支給限度基準額20万円は、1回の工事だけに使う必要はありません。最初に8万円分を使い、後から12万円分を使うように、必要に応じて分けられます。限度額を使い切るまでは、過去の対象工事費を差し引いた残額を利用します。
工事費が25万円で1割負担の場合、20万円までの1割に当たる2万円と、上限を超えた5万円を合わせた7万円が本人負担です。対象工事と対象外工事が混在する場合は、対象部分だけで20万円枠を計算します。
厚生労働省の制度概要では、転居した場合や、要介護状態区分が一定以上重くなった場合は、例外的に再度20万円までの枠が設定されます。一般に「3段階リセット」と呼ばれますが、過去の利用時点や区分の組合せで判断が変わります。家族だけで計算せず、市区町村に過去の利用額と再支給の可否を確認してください。制度の概要は厚生労働省「介護保険における住宅改修」に示されています。
支払いは償還払いが原則
原則は、工事費をいったん施工事業者へ全額支払い、完了後の申請で保険給付分が戻る「償還払い」です。自治体によっては、本人が自己負担分だけを事業者へ払い、残りを自治体が事業者へ支払う「受領委任払い」を利用できます。
受領委任払いは、自治体に登録された施工事業者に限られる場合があります。事業者へ「介護保険を使える」と言われただけで判断せず、市区町村へ支払方法と登録状況を確認しましょう。見積金額が同じでも、着手金、追加工事、申請が認められなかった部分の支払い条件は事業者ごとに異なります。
工事前と工事後の申請手順
| 段階 | 行うこと | 主な書類 |
|---|---|---|
| 1. 相談 | 困っている動作と場所をケアマネジャー等に伝える | 被保険者証、負担割合証、過去の利用状況 |
| 2. 現地確認 | 本人の動作を見ながら工事内容を検討する | 住宅改修が必要な理由書 |
| 3. 見積り | 工事箇所、材料、数量、単価を確認する | 見積書、工事前写真、図面 |
| 4. 事前申請 | 市区町村へ提出し、着工可能の連絡を待つ | 申請書、理由書、見積書、写真、所有者承諾書等 |
| 5. 工事 | 承認された内容で施工し、変更時は先に相談する | 変更見積書が必要になる場合あり |
| 6. 完了申請 | 工事後の書類を提出して支給を受ける | 領収書、工事費内訳書、完成写真等 |
厚生労働省は、ケアマネジャー等が作成する「住宅改修が必要な理由書」を添え、施工前と施工後に自治体へ申請する流れを示しています。自治体によって様式、写真の撮り方、提出方法、審査期間が異なるため、必ず本人の住所地の案内を使ってください。
工事前写真には、撮影日と改修箇所が分かる状態が求められます。手すりを設置する場合は、どの壁のどの位置か分かるように撮ります。工事後は、同じ方向から完成状態を撮ると比較しやすくなります。申請書類の根拠は介護保険法施行規則にも定められています。
賃貸住宅と共有住宅は所有者の承諾が必要
賃貸住宅、家族名義の住宅、分譲マンションの共用部分など、本人が所有していない場所を改修する場合は、所有者の承諾を確認できる書類が必要です。賃貸借契約で原状回復を求められることもあります。
家主や管理組合へは、工事内容、位置、固定方法、工事日、退去時の扱いを説明します。承諾前に工事日を決めたり、壁へ穴を開けたりしないでください。承諾が得にくい場合は、工事不要の据え置き型手すりや貸与スロープで代替できるか、福祉用具専門相談員に相談します。
施工事業者を選ぶときの注意点
自治体によって、自由に事業者を選べる場合と、受領委任払いに登録事業者の条件が付く場合があります。ケアマネジャーの紹介先だけで決める必要はありません。可能なら複数の見積りを取り、工事の必要性、材料、数量、単価、保証内容を比べます。
「20万円まで保険が出るので使い切りましょう」という提案には注意が必要です。限度額は工事予算ではなく、本人に必要な対象工事の上限です。将来、別の場所に手すりや段差解消が必要になる可能性も考え、今必要な工事を優先します。
工事場所ごとの考え方
玄関:上がりかまちに手すりを付けるだけでよいのか、踏み台や固定スロープも必要なのかを確認します。手すりの高さや向きは、本人が靴を脱ぎ履きするときの姿勢で決めます。屋外まで改修する場合は、雨天時の滑りや水はけも見ます。
トイレ:便器へ近づく、向きを変える、ズボンを下ろす、座る、立つという動作を分けて確認します。手すりの位置を便器だけで決めると、扉の開閉や介助者の立ち位置を妨げることがあります。和式から洋式へ替える場合は、便器本体だけでなく給排水や床工事の対象範囲を見積書で分けます。
浴室:入口の段差、床の滑り、浴槽のまたぎ、立ち座りを順に確認します。床全体の張り替えや浴槽交換がすべて対象になるとは限りません。入浴用いすや浴槽台など、特定福祉用具の購入で解決できる場合もあります。
寝室から廊下:夜間の移動経路を実際に歩き、ベッドから立つ場所、照明スイッチ、曲がり角、敷居を確認します。昼間は歩けても、寝起きや夜間はふらつくことがあります。固定手すりを付ける前に、ベッド位置や家具配置の変更で動線が短くならないかも検討します。
工事内容が変わったら勝手に進めない
壁を開けたら下地補強が追加で必要になった、予定した手すりが取り付けられない、材料を別の商品へ変更したい――工事中にこうした変更が生じることがあります。事前申請と異なる内容をそのまま施工すると、変更部分が支給対象外になる可能性があります。
施工事業者には、変更が必要になった時点で作業を止め、市区町村やケアマネジャーへ連絡するよう事前に伝えておきます。変更後の見積書や図面の再提出が必要かを確認し、口頭だけでなく記録を残してください。
住宅改修の確認リスト
- □ 本人の要介護認定と負担割合を確認した
- □ 被保険者証の住所と工事する住宅が一致している
- □ 過去の住宅改修費の利用額を市区町村に確認した
- □ 転居や要介護度上昇による再支給の可否を確認した
- □ 本人が困っている動作を場所ごとに書き出した
- □ ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談した
- □ 本人の動作を現地で確認してもらった
- □ 工事と福祉用具のどちらが合うか比較した
- □ 介護保険の対象部分と対象外部分を分けた
- □ 複数の施工方法を検討した
- □ 可能なら複数事業者から見積りを取った
- □ 見積書に材料、数量、単価が記載されている
- □ 追加工事が発生した場合の扱いを確認した
- □ 工事保証と修理窓口を確認した
- □ 償還払いと受領委任払いのどちらか確認した
- □ 賃貸・家族名義なら所有者の承諾を得た
- □ マンションの管理規約と工事申請を確認した
- □ 工事前写真に日付と改修箇所が写っている
- □ 住宅改修が必要な理由書を用意した
- □ 市区町村へ事前申請を提出した
- □ 着工可能の確認を受ける前に工事を始めていない
- □ 工事内容を変える前に市区町村へ相談した
- □ 領収書の宛名が申請者本人になっている
- □ 工事後写真と完了申請書類を保管した
急な退院に合わせて改修する場合は、病院の退院支援担当者へ早めに相談します。退院日だけを先に決めると、認定、ケアマネジャー選び、事前申請、工事が間に合わないことがあります。入院中の準備は親が緊急入院したときの手続きも参考にしてください。
よくある質問
Q. 要支援1でも利用できますか?
利用できます。支給限度基準額は要支援・要介護の区分にかかわらず原則20万円です。ただし、本人に必要な対象工事であることと、事前申請が必要です。
Q. 家族がDIYで手すりを付けても対象ですか?
材料費が対象となる可能性はありますが、工賃は支給対象になりません。領収書、材料内訳、施工前後の写真などが必要です。自治体によって取扱いが異なるため、購入前に確認してください。
Q. 入院中に自宅を改修できますか?
退院して自宅で生活する予定があり、自治体が必要性を確認できれば事前申請できる場合があります。ただし、退院できなかった場合は支給されないことがあります。着工条件と申請時期を市区町村に確認します。
Q. ケアマネジャーがいない場合はどうしますか?
市区町村の介護保険窓口か地域包括支援センターへ相談します。相談時に伝える内容は地域包括支援センターへの相談チェックリストで整理できます。
制度内容の確認日:2026年8月29日。事前申請の様式、写真の撮り方、受領委任払い、所有者承諾書、審査期間は自治体によって異なります。契約・着工前に、本人の住所地の介護保険窓口で確認してください。
工事契約より先に市区町村へ確認する
住宅改修費で最も避けたいのは、対象になると思って工事を始めた後に、事前申請が必要だったと気付くことです。最初に本人の動作と住環境を確認し、工事内容を決め、見積書と理由書をそろえて市区町村へ提出します。
20万円を使い切ることが目的ではありません。本人が今困っている動作を安全にし、将来の変化にも対応できる工事を選ぶことが目的です。工事、福祉用具、介助方法を一緒に比べ、着工前に書面で確認してください。


コメント