成年後見制度は、判断能力が十分でない人の権利や財産を守り、法律上の手続きを支える仕組みです。親の預金を介護費に使いたい、施設の契約を進めたい、実家を売りたい。そうした手続きが難しくなったときに、利用を検討します。
申立て前には、本人に必要な支援、後見人の権限、継続する費用、利用を終了できる条件を確認してください。一つの手続きが済んだ後も支援が続く場合があります。この特集では、困りごとに合わせて読む記事を選べます。
図解:申立て前に、困りごとと相談先を整理する

図解の内容を文章で読む
- 本人の希望:自分で決めたいこと・任せたいこと
- 困っている手続き:預金・介護契約・相続・住まい
- 支援の選択肢:必要な権限・範囲・費用を比較
- 地域の窓口へ相談:申立ての前から相談できる
相談の準備例。制度は一律に決まりません。
最初に、親の困りごとを一つずつ書き出す
本人が説明を理解して判断できるか、どの契約や支払いに困っているかを、かかりつけ医や地域の相談窓口に確かめてください。認知症という診断名だけで、後見が必要と決まるわけではありません。厚生労働省の意思決定支援の案内も、本人の希望と決める力を支えることを重視しています。
| 困りごと | 先に確認すること | 詳しく読む記事 |
|---|---|---|
| 介護費を親の預金から払いたい | 本人の意思確認、銀行の代理手続き、請求書 | 認知症の親の口座・預金 |
| 制度利用でいくらかかるか不安 | 申立費用と毎年の報酬を分ける | 成年後見の費用 |
| 始めてから困らないか心配 | 終了条件、候補者の選任、財産の使い方 | デメリットと後悔を防ぐ確認 |
| 家族が支援を引き受けたい | 選任の判断、報告、利益相反 | 家族が後見人になる場合 |
| 親の実家を売りたい | 意思能力、代理権、居住用不動産の許可 | 認知症の親の実家売却 |
| 相続の話合いが進まない | 協議の理解、共同相続人と代理人の関係 | 認知症の親と遺産分割 |
法定後見は、後見・保佐・補助に分かれる
裁判所の制度概要では、現在の法定後見を次の3類型で説明しています。どの類型に該当するかは、医師の診断や裁判所の審理を踏まえて判断されます。
| 類型 | 判断能力の状態 | 権限を確認するときの注意 |
|---|---|---|
| 後見 | 判断能力が欠けているのが通常の状態 | 財産に関する法律行為を広く代理するが、日常の買物などの扱いは異なる |
| 保佐 | 判断能力が著しく不十分 | 重要な財産行為への同意・取消しと、審判で付与された代理権を区別する |
| 補助 | 判断能力が不十分 | 本人の同意を前提に、必要な行為の同意権・代理権などを定める |
保佐人が代理できる行為は、審判や登記事項証明書で確認してください。保佐人に選ばれても、預金や不動産の手続きをすべて代理できるとは限りません。医療行為への同意や実際の介護も、財産管理の権限とは別です。後見人ができること・できないことで場面別に整理しています。
使う前に確認したい4つの負担
第一に、後見人等は裁判所が選任するため、家族が推薦した候補者が選ばれるとは限りません。第二に、報酬は裁判所が決め、本人の財産から支払うのが基本です。第三に、財産管理や報告が続きます。第四に、現行制度では、預金の解約など当初の目的が済んだことだけを理由に利用を終えることはできません。
制度の目的は、本人の権利を守ることです。家族が希望する財産処分を、そのまま認める仕組みではありません。「介護費のための支出」と「家族への贈与・相続対策」は分けて考えてください。
別の支援方法で、今の困りごとに対応できるか比べる
| 方法 | 主に検討する場面 | 先に確認する条件 |
|---|---|---|
| 任意後見 | 判断能力があるうちに将来の支援者と内容を決める | 公正証書で契約し、監督人選任で効力が生じる |
| 日常生活自立支援事業 | 福祉サービス利用や日常的な金銭管理を支えてほしい | 本人が支援契約の内容を理解できること |
| 家族信託 | 一定の財産の管理・処分を事前に設計する | 契約能力と対象財産。生活上の契約まで一括で代わる仕組みではない |
費用とあわせて、今困っている手続きをその方法で扱えるかを確認してください。比較は任意後見と法定後見、家族信託との違い、日常生活自立支援との違いを参照してください。
相談は申立ての前からできる
まず、親が暮らす市区町村の成年後見相談窓口、中核機関、地域包括支援センターへ相談してください。書類や裁判手続きは家庭裁判所に、個別の法律問題は弁護士や司法書士に尋ねます。厚生労働省の相談窓口検索から地域の窓口を探せます。
相談には、本人の希望、困っている契約、期限、収入と毎月の支出、親族関係、現在使える支援をメモして持参してください。費用の支払いが難しい場合は利用支援と助成を、家族が申立てできない場合は市町村長申立てを確認してください。
申立ての実務は手順と必要書類で、利用開始後の問題は後見人への不満や不正が疑われるときで整理しています。
相談例:介護費の支払いと実家売却は、分けて考える
次は説明のための架空例です。 一人暮らしの母が入院し、子どもは「施設費を母の口座から払うこと」と「空いた自宅を売ること」を同時に考えています。しかし、支払いの確認と不動産の処分では、必要な権限や資料が違います。
最初の相談では、「母は認知症です」という説明だけで終えず、誰への支払いがいつ必要なのか、自宅を売る理由は何か、母はどんな暮らしを望んでいるかを分けて伝えます。銀行には本人の意思確認やその銀行の手続き、売却には本人の判断能力と代理権、居住用不動産処分の許可などの確認が必要になります。一つの方法ですべて解決できると決めつけず、今月の支払いと将来の住まいを並行して整理します。
相談先には、次のように伝えると、困っていることを共有しやすくなります。
母は施設で暮らすことを希望しています。今月の施設費の支払いと、空いた自宅の管理に困っています。母が説明を理解できる状態かを確認しながら、どの支援で対応できるか、継続費用も含めて相談したいです。
この文は相談のたたき台です。本人の意向を聞けていない場合は「希望しています」と書かず、まだ確認できていないことをそのまま伝えてください。
本人が希望を伝えやすい方法を試す
本人が返事をしない、話が長く続かないときは、説明する場所や時間を変え、選択肢を少なくして伝えるなどの方法を試してください。それだけで「何でも家族に任せたい」と判断するのは早計です。本人が理解しやすい説明は、制度を使うかどうかの判断とは別に取り組めます。厚生労働省の意思決定支援の考え方を相談の参考にしてください。
たとえば「実家は売ってよい?」だけでなく、「家の管理をどうしたい?」「大切な家具は残したい?」「施設に入っても家へ戻りたい?」と、本人が答えやすい話題から確認します。回答は、その日の体調や説明の内容と一緒に記録します。家族の推測、本人が実際に言ったこと、支援者の評価は同じ欄に混ぜません。
初回相談に持っていく1枚メモ
書類を全部そろえる前でも、次のメモで相談したいことを整理できます。当サイトの相談準備用のひな形です。裁判所の申立書とは分けて使ってください。
| 項目 | 書き方の例 |
|---|---|
| 今困っていること | 施設費の支払い/契約の更新/自宅の管理など、手続きごとに記載 |
| 本人の希望 | 本人の発言と確認日。不明なことは「未確認」 |
| いつまでに必要か | 請求書・契約書に書かれた期日。自分の希望日とは区別 |
| 現在の支援 | 家族、ケアマネジャー、銀行への相談、社協の支援など |
| 判断についての相談 | 医師・支援者に相談した内容。家族の見立ては区別 |
| 費用と担い手 | 本人の収入・支出、家族が担える作業、難しい作業 |
相談の最後に、「今日分かったこと」「次に確認する相手」「まだ決まっていないこと」を三つに分けてメモしてください。申立ての必要性がまだ決まっていなくても、本人の希望と支払い期限を共有しておけば、次に相談することが分かります。
2026年の改正法は、成立日と施行日を区別する
成年後見の見直しを含む法律は、2026年6月に成立・公布されています。成年後見に関する主要な変更の施行日は、政令で定める仕組みです。今の申立てでは、適用される制度と終了条件を確認してください。新制度の条件を先取りできるわけではありません。2026年改正法の記事に、変更内容と確認が必要な点をまとめました。
よくある質問
親に認知症の診断があれば必ず使うのでしょうか
本人の判断能力、困っている法律行為、他の支援方法を踏まえて検討します。診断名だけで必要性が一律に決まるわけではありません。
本人より家族の希望が優先されますか
本人の権利と生活を支える制度です。家族は本人の希望を確かめ、自分たちの都合と区別して支援を考えてください。
参考にした公的情報
制度確認日:2026年10月1日。申立て前には管轄家庭裁判所の最新案内と施行状況を確認してください。

